東京地方裁判所 昭和51年(ワ)1234号 判決
原告 斉藤亶治郎
〈ほか三名〉
右原告ら訴訟代理人弁護士 大日向節夫
被告 株式会社織姫カントリー倶楽部
右代表者代表取締役 武田勝彦
主文
一 被告は原告斉藤亶治郎に対し、金一六九万四五〇〇円と、これに対する昭和五〇年七月一日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は原告水上春樹に対し、金一七一万五五〇〇円と、これに対する昭和五〇年六月六日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。
三 被告は原告有田勲に対し、金一六〇万円と、これに対する昭和四八年一一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告は原告大野孔資に対し、金一七四万円と、これに対する昭和五一年一月一日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。
五 訴訟費用は被告の負担とする。
六 この判決は、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨(訴状の請求の趣旨の記載中、原告大野の請求につき「昭和五〇年一月一日」とあるのは「昭和五一年一月一日」の誤記と認める。)
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告らは、被告との間で以下のとおりゴルフ場の利用を目的とする織姫カントリー倶楽部入会契約(以下、本件契約という)を締結した。
(一) 契約締結日
原告斉藤 昭和四八年一二月六日
原告水上 同右
原告有田 昭和四八年一〇月三〇日
原告大野 昭和四八年一二月八日
(二) 被告は、昭和四九年一〇月までに、栃木県足利市板倉町に、クラブハウス(サウナバス完備)、プール、フィールドアーチェリー、駐車場等の付帯設備を有する面積一三三万六五〇〇平方メートル、二七ホールのゴルフ場(以下、本件ゴルフ場という)を建設し、原告らに対し、昭和五〇年四月からこれを使用させる。
(三) 原告らは、被告に対し、右使用の対価として預託保証金を次のとおり支払う。
(1) 原告斉藤は、金一六九万四五〇〇円のうち頭金七〇万円を昭和四八年一二月六日に支払い、残金九九万四五〇〇円は昭和四九年一月から昭和五〇年六月まで毎月末日金五万五二〇〇円(但し、初回は金五万六一〇〇円)ずつ一八回の分割払。
(2) 原告水上は、金一七一万五〇〇〇円のうち頭金五〇万円を昭和四八年一二月一三日に支払い、残金一二一万五五〇〇円は昭和四九年一月から昭和五〇年六月まで毎月五日金六万七五〇〇円(但し、初回は金六万八〇〇〇円)ずつ一八回の分割払。
(3) 原告有田は、昭和四八年一〇月三〇日に金一六〇万円を支払う。
(4) 原告大野は、金一七四万円のうち頭金六〇万円を昭和四八年一二月八日に支払い、残金一一四万円は昭和四九年一月から昭和五〇年一二月まで毎月末日金四万七五〇〇円ずつ二四回の分割払。
2 原告有田は右約定どおり右の金額を支払い、その余の原告はいずれも、右約定の日にそれぞれの頭金を支払ったほか、各分割金を手形金額とし各弁済期を満期とする約束手形を振出して被告に交付した。そして右の各手形金はいずれも満期に支払われた。
3 しかるにその後、本件ゴルフ場の建設許可をめぐって、贈収賄事件が生じ栃木県の右許可審査手続が中断したうえ、被告が右ゴルフ場を約定どおり開設するに必要な土地も確保できなくなったため、本件契約にもとづく被告の債務は、約定の開設期限を待たず履行不能となった。
4 原告らは被告に対し、昭和五〇年二月一二日到達の書面をもって、本件契約を解除する旨の意思表示をした。
5 かりに右解除の理由がないとしても、被告は約定の本件ゴルフ場開設期限を過ぎても、右ゴルフ場を建設して原告らにこれを使用させることを怠っているので、原告らは、本訴状をもって本件契約を解除し、右訴状は昭和五一年三月四日被告に到達した。
6 よって原告らは被告に対し、前記預託保証金の返還とこれに対する各原告の最終の支払日の翌日から支払ずみまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1のうち、被告が昭和四九年一〇月までに原告主張のようなゴルフ場を建設する旨の合意のあったことは否認、その余の事実は知らない。
2 同2のうち、被告が原告らから預託保証金を受領したことは認めるが、その余の事実は知らない。
3 同3のうち、昭和五〇年六月当時本件ゴルフ場の建設許可が得られなかったことは認めるが、その余の事実は否認する。
4 同4は認める。
5 同5は否認する。
第三証拠《省略》
理由
一 《証拠省略》によると、本件ゴルフ場付帯設備の一つとしてプールを建設するとの部分を除き、請求原因1の事実を認めることができる。
二 請求原因2のうち被告が原告らから預託保証金を受領したことは、当事者間に争いがなく、《証拠省略》によるとその余の事実を認めることができる。
三 そこで、原告主張の履行不能の点について判断する。
1 昭和五〇年六月当時本件ゴルフ場建設につき、栃木県の開発許可が得られなかったことについては、当事者間に争いがない。
《証拠省略》によると、被告は、昭和四八年ころから栃木県足利市板倉町に本件ゴルフ場の建設を計画し、これに伴い、預託保証金を納入した者に対し優先的にゴルフ場を利用し得る契約上の地位を認めるいわゆる預託金会員組織のゴルフ会員を募集し、原告らはこれに応募したこと、ところが本件ゴルフ場の建設予定地は当初からその一部に国有地および足利市有地(以下、市有地等という)を含み、右市有地については同市の公園化計画が進行中であったことから、昭和四九年四月ころ右市有地等の転用許可および払下げをめぐって贈収賄事件を生じ、これが新聞等に報道され広く社会の知るところとなったため、ゴルフ場建設についての栃木県の林地開発許可審査手続が中断されたこと、その結果被告は、本件ゴルフ場二七ホール開設に必要な用地の確保ができず、当初の計画の大幅な変更を余儀なくされるに至り、約定の開設期限をすぎても建設工事の着工すらできなかったこと、以上の事実が認められる。
《証拠判断省略》
2 右認定の事実によれば、前記贈収賄事件の発生とその報道により、前記市有地等の転用および払下げによる本件ゴルフ場建設用地の確保はほとんど期待し得ないこととなったのであるから、本件契約にもとづく被告の債務は、前記事件が生じた昭和四九年四月ころ、履行不能になったとみるのが相当である。
四 原告らが被告に対し昭和五〇年二月一〇日到達の書面をもって本件契約解除の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。
五 以上の事実によれば、原告有田の請求は契約解除に基づく原状回復を求めるものとして正当であるから、これを認容すべきである。また、その余の原告らの請求のうち、前記契約解除の日までに被告に支払った金員の返還を求める部分は右と同様の理由によりこれを認容すべきである。しかし、その後に支払われた金員は、解除による契約終了後のものであるから債務なくして支払われたものである。そうすると、原告らは不当利得として被告に対しその返還を求めることができるものというべきである。なお、右分割金の支払は、前示のように、右原告らが本件各契約と同時にあらかじめ各弁済期を満期として被告に対して振出した約束手形を各満期に決済することによりなされたものであるから、民法七〇五条の適用を受けるものではない。したがって、右請求は正当として認容すべきである。
よって、原告らの本訴請求は全部理由があるから、いずれもこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 新村正人)